アドリア海に面するクロアチアの港湾都市スプリトの中心部には、3世紀末にローマ皇帝ディオクレティアヌスが退位後の居城として築いた宮殿の遺構が、そのまま都市の骨格として今日まで利用されています。宮殿は軍事要塞のような堅固な城壁で囲まれ、内部は皇帝の居住区、霊廟、神殿などから構成されていました。
ローマ帝国滅亡後、避難してきた住民が宮殿の構造をそのまま利用して住居や商店を築いたことで、古代の建築遺構と中世以降の増改築が重層的に融合した独特の都市景観が形成されました。皇帝の霊廟であった建物は後にキリスト教の大聖堂へと転用され、古代ローマの円柱や彫刻装飾が今も残されています。
地下には宮殿建設当時の広大な貯蔵空間がほぼ完全な形で保存されており、当時の建築構造を知る貴重な手がかりとなっています。宮殿を中心に発展した街には、中世からルネサンス期にかけて建てられた邸宅や教会も加わり、複数の時代の建築様式が層をなす複合的な都市景観が形成されました。
かつての皇帝の居室は現在も住居や店舗として利用され、古代の空間が現役の生活の場として機能し続けている点が特徴です。宮殿の正門であった青銅の門からは衛兵が交代の儀式を行っていた広場が続いています。
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