ハーン宮殿のあるシェキの歴史地区は、大コーカサス山脈のふもとに位置する歴史都市です。この町はグルジャナ川によって二分されており、古い北部は山側に、南部は川の谷に広がっています。歴史地区は1772年の泥流によって以前の町が破壊された後に再建されたもので、切妻屋根を持つ伝統的な家屋群が特徴です。
歴史的な交易路沿いに位置していたことから、サファヴィー朝、ガージャール朝、ロシア統治の建築様式の影響を受けています。町の北東に位置するハーン宮殿や多くの商人の邸宅は、18世紀後半から19世紀にかけて養蚕と繭の取引によってもたらされた富を反映しています。
宮殿内部を彩るステンドグラス「シェベケ」の精緻な装飾は、釘を一切使わずに組み上げられた伝統工芸の粋として知られています。町全体には養蚕業に対応した水利システムが張り巡らされ、桑の木が茂る庭園とともに、蚕を育てる生活文化に根ざした都市計画を今に伝えています。
森に囲まれた山あいの谷という立地条件のなかで、歴史的な街区の形状がほぼそのまま保たれている点も、この町の大きな特徴といえます。彩色豊かな天井画で飾られたハーン宮殿の内部装飾は、職人たちが培ってきた高度な美術技術の到達点を今に伝えています。