キナリグ人の文化的景観と移牧の道「カッチ・ヨル」は、大コーカサス山脈にある高地の村キナリグを中心とする文化的景観です。この景観は、キナリグ村のほか、山岳地帯の夏季放牧地と農業用テラス、低地に広がる冬季放牧地、そしてそれらを結ぶ全長200kmにおよぶ季節的な移牧路「カッチ・ヨル(移動の道)」から構成されています。
キナリグ村には半遊牧民であるキナリグ人が暮らしており、夏の高地牧場と冬の低地牧場との間を季節ごとに移動する生活様式と文化を今日まで受け継いでいます。移牧路沿いには墓地や橋、聖廟、モスクなど数多くの文化的遺構が点在しており、畜産を中心とした持続的な土地利用と厳しい自然環境への適応の歴史を、生きた形で今に伝える景観となっています。
キナリグ人は独自の言語と伝統を保持し続けており、標高の高い過酷な環境のなかで、世代を超えて受け継がれてきた暮らしの知恵を今日まで維持していることでも知られています。現在も家畜とともに移動する暮らしが実際に営まれており、過去の遺構ではなく今なお息づく生きた文化的景観として位置づけられています。
険しい山岳地帯を越える移牧路の景観は、人と家畜と自然が築き上げてきた共生の姿を伝えています。