ヒルカニアの森林群は、カスピ海沿岸に沿って広がる、独特な広葉樹林の集合体です。この森林の歴史は2500万年から5000万年前にさかのぼり、当時は北方温帯地域の大部分を覆っていました。植物相の多様性は極めて高く、3200種以上の維管束植物が確認されているほか、広葉温帯林に典型的な鳥類180種、哺乳類58種が記録されています。
ヒョウ、オオカミ、ヒグマといった上位捕食者を含む完全な生態系が保たれており、希少種や固有種の樹木も多く見られます。最も古い樹木は樹齢300年から400年、なかには500年に達する可能性があるものもあります。氷河期の間に後退し、温暖な時期に再び広がったこれらの森林は、太古から続く温帯林の進化の過程を今に伝える生きた記録となっています。
この地域が氷河の影響を比較的受けにくい地形にあったことから、他の地域では失われてしまった古代の遺存種や地域固有種が数多く生き残っており、生物多様性の宝庫としても知られています。海抜近くから標高2500m級の山岳地帯まで続く森林の垂直分布も見どころのひとつで、多様な環境が織りなす豊かな自然を体感できます。