オルチア渓谷は、イタリア中部トスカーナ州シエナ県に広がる農村景観からなる世界遺産です。シエナからローマへ至る巡礼路ヴィア・フランチジェナが通るこの地域は、14世紀から15世紀にかけてシエナ共和国によって農業景観の管理と美化が計画的に進められ、当時の理想的な田園風景の理念を体現する土地として整備されました。
糸杉の並木道、なだらかな丘陵に広がる麦畑、点在する農家や小都市が織りなす景観は、ルネサンス期の絵画に繰り返し描かれた田園美の理想を今に伝えています。ピエンツァやモンタルチーノといった歴史的な小都市も渓谷内に含まれ、農業生産と美的景観設計が一体となった土地利用のあり方を示す事例として評価されています。
粘土質の地層が浸食されて形成された独特の裸地状丘陵クレーテ・セネージも渓谷内に点在し、自然地形と農業景観が組み合わさった多様な風景を生み出しています。集落と集落を結ぶ街道沿いには、旅人の休息や物資の中継を担った塔状の農家や巡礼宿の跡も点在し、交通路としての歴史を今に伝えています。
渓谷内の農地は現在も羊の放牧やワイン用ブドウの栽培に利用され、伝統的な土地利用が景観の維持に直接結びついています。
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